公務員って住民票とか出す仕事でしょ?

こんにちは。名古屋市職員の鵜飼です。

前回に続き、「行政職員は法を執行する」という点について書いてみたいと思います。



さて、突然ですが、「公務員の仕事ってなーんだ?」という質問をしてみます。



あなたは、何を思い浮かべましたか?



もしかしたら、「市役所の窓口で、住民票を出してる人」みたいなイメージが頭に浮かんだのではありませんか?



さらに言うと、中年男性で眼鏡をかけていて、白いワイシャツに、袖には謎のなんか黒いカバーみたいなやつをつけてる…と、そこまでピンポイントではないかもしれませんが、一般の方が「公務員の仕事」お思い浮かべる際に根強いのが「住民票を出してる人」というものです。



余談ですが、いまgoogleで「市役所 腕」と入力したら、「腕時計」の次に「腕カバー」が予測検索に出てきました。

皆さん、気になってるんですね、アレ。ちなみに僕はまだ、あれを装着して仕事をしている人を見たことはありません。絶滅危惧種なんでしょうか。



余談はさておき。

本題に戻りますと、「住民票を出している人」も、実は法を執行しています。






…本当です。


行政職員は、三権分立で言うところの行政府に属しています。

行政府の人間は、立法府がつくった法律を、執行するのが仕事です。

この辺までは、前回も書きました。



ふつう、「法」と言われると、いわゆる「法曹」の方面が頭に浮かびます。弁護士とか、裁判官とか。

しかし、「法」というのは、もっと広く広く、世の中を包んでいるものでして、おの広い広い法の世界を実質的にだれが担っているのかというと、それはある意味では行政職員なんです。



「住民票を出している人」を例に、具体的に考えてみましょう。

私は、戸籍担当課で働いたことはありませんので、ゼロから考えてみます。

(部分部分、正確でないかもしれませんが、そこはごめんなさい)



役人が何かをするというとき、そこには必ず根拠があります。

根拠にはいろいろありますが、いちばん基本かつ強力な根拠は「法律」です。

となると、「住民票を出している人」の仕事の背景にも、必ず法律があるはずだ、と考えます。


ググってみたら、こんなサイトがありました。


  『住民票ガイド』

  Q。住民票の根拠法令・条文は何ですか。

  A.住民票は、住民基本台帳法が根拠となる法律となります。



なるほど、住民基本台帳法という法律があるようですね。

では、原文にあたってみましょう。

役人はいつも、原文に当たるものなのです。




 住民基本台帳法

(目的)

第一条 この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。



住民基本台帳とは、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う制度なんですね。初めて知りました。

でも、我々が知りたいのは「住民票を出してる人」の仕事です。

もう少し法律を読んでみましょう。




(住民基本台帳の作成)

第六条 市町村長は、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成しなければならない。

2 市町村長は、適当であると認めるときは、前項の住民票の全部又は一部につき世帯を単位とすることができる。

3 市町村長は、政令で定めるところにより、第一項の住民票を磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物を含む。以下同じ。)をもつて調製することができる。



やっと「住民票」という言葉が出てきました。

どうやら、住民票を束ねて編成したものが、住民基本台帳ということのようですね。初めて知りました。


ところで、条文の引用が多くなってきました。役人でない方は「かんべんしてくれ!」と思われるかもしれませんが、飛ばし読みでOK(特にこの次のやつは)ですので、どうかお付き合いください。



(本人等の請求による住民票の写し等の交付)

第一二条 住民基本台帳に記録されている者は、その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長に対し、自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製している市町村にあつては、当該住民票に記録されている事項を記載した書類。以下同じ。)又は住民票に記載をした事項に関する証明書(以下「住民票記載事項証明書」という。)の交付を請求することができる。

2 前項の規定による請求は、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。

一 当該請求をする者の氏名及び住所

二 現に請求の任に当たつている者が、請求をする者の代理人であるときその他請求をする者と異なる者であるときは、当該請求の任に当たつている者の氏名及び住所

三 当該請求の対象とする者の氏名

四 前三号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項

3 第一項の規定による請求をする場合において、現に請求の任に当たつている者は、市町村長に対し、個人番号カード(番号利用法第二条第七項に規定する個人番号カードをいう。以下同じ。)を提示する方法その他の総務省令で定める方法により、当該請求の任に当たつている者が本人であることを明らかにしなければならない。

4 前項の場合において、現に請求の任に当たつている者が、請求をする者の代理人であるときその他請求をする者と異なる者であるときは、当該請求の任に当たつている者は、市町村長に対し、総務省令で定める方法により、請求をする者の依頼により又は法令の規定により当該請求の任に当たるものであることを明らかにする書類を提示し、又は提出しなければならない。

5 市町村長は、特別の請求がない限り、第一項に規定する住民票の写しの交付の請求があつたときは、第七条第四号、第五号及び第八号の二から第十四号までに掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した写しを交付することができる。

6 市町村長は、第一項の規定による請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。

7 第一項の規定による請求をしようとする者は、郵便その他の総務省令で定める方法により、同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の送付を求めることができる。



ついに、たどりついたようです。

住民基本台帳法第12条第1項には、住民基本台帳に記録されている者は、市町村長に対して、住民票の写しを交付するよう求めることができることを定めていうようです。

そして、第5項では、市町村長は、この請求があったときは、住民票の写しを交付することができる、と定めています。



「市町村長は」という言い回しに違和感を持たれる方もいるかもしれませんが、これはこういうものだと思ってください。我々職員は、市町村長が行うものとされている事務を、その手となり足となり執行しています。



ようやく、「住民票を出している人」の仕事の正体がわかりました。



すなわち、この人は、住民基本台帳法第12条第1項の請求に対して、同条第5項を根拠に、住民票の写しを交付する仕事をしていたというわけです。(私の理解が正しければですが)



これが、今回皆さんにお伝えしたかった、「行政職員は法を執行している」ということです。



「住民票を出している人」のイメージが変わった方がいれば、嬉しいですね。

(そして、そこで出しているのは、「住民票」ではなく「住民票の写し」だということも、せっかくなので憶えておいてもらえればなお幸いです)



ちなみに、「法を執行」と言うと大層な話に思えますが、これは本当に大層な話であるときもあれば、別に大層ではない話であるときもあります。



後者から言いますと、通常の人が、よくある感じで、何のイレギュラーもなく申請をしてくださっていれば、ルーチンワークで処理するだけですので、市民の方がそう思っておられるように、おそらくそれほど難しい仕事ではありません。



しかし、前者、例えばOKな場合とNGな場合の境界線上にあるようなレアケースな申請があったりしますと、

そこは対応する行政職員の知識と経験が試されることになります。



私はこの仕事をしたことがありませんので、すべては想像の向こう側ですが、条文からイメージしますと、たとえば第6項には「不当な目的によることが明らか」な申請は、住民票の写しの交付を断っていいと書いてあります。



ある人の申請が「不当な目的」によるかどうかって、どう判断するんでしょうか。


「ぼくは不当だと思うから」ではアウトです。

なにせ、この仕事は市町村長の看板を背負ってやってる訳ですから、間違った解釈で正しくない処理をしたら、それは市町村長が市民に対して違法な仕事をしたということになっちゃいますから。



行政職員の仕事は本当に様々ですが、その人が行政職員である限り、ほとんど全ての場合において、「法を執行している」という要素が、仕事に関わってくるのではと思います。



もちろん、濃淡はありますね。

そしてそもそも、国家公務員、都道府県職員、市町村職員の別でも、かなり大きく色合いが変わってくるようです。

行政職員の仕事は、本当にバリエーションが豊富ですので、残念ながら私がお伝えできるのは、どう頑張ってもそのほんの一部分にすぎないんですね。


今日は、ここまで。 

公務員キャリアトーカーズ

公務員が組織を飛び出て、色んな方とシゴトについてトークするボランタリーな活動です。

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