実は悲惨な公務員(山本直治、光文社新書、2008)
著者:国家公務員(キャリア)、公務員退職者
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こんにちは、名古屋市職員の鵜飼です。
今回は山本直治さんの、『実は悲惨な公務員』をご紹介します。
すごいタイトルですね。
まずは、裏表紙から著者のプロフィールを引用します。
(私が下手に要約するよりよっぽどマシだとようやく気付きました。)
〈引用はじめ〉
1974年長野生まれ。中央大学法学部卒業。同大学大学院法学研究科修了。国家公務員採用Ⅰ種試験に合格して文部省(現・文部科学省)に採用される。内閣官房副長官補室などを経て退職。現在、人材紹介会社のロード・インターナショナル株式会社でシニアコンサルタントとして活躍中。また、日本初の公務員向け転職支援情報サイト「公務員からの転職支援 役人廃業.com」を主宰。著書に『公務員、辞めたらどうする?』『人材コンサルタントに騙されるな!』
〈引用おわり〉
院卒、キャリア採用、なのに退職。さらに、公務員向け転職情報サイトを主宰という、とてもエキサイティングな経歴です。
人間、転職などした場合、よほど前向きな形でステップアップできた場合は別ですが、多くの場合、前の職場や会社には複雑な思いを持つものです。私も新卒で勤めた会社をドロップアウトしたり、研究者を目指して進学したもののドロップアウトしたり(恥の多い生涯を送って来ました)してきましたが、正直、その会社や研究の世界にはなかなか向き合いきれずにいます。向き合いきれないがゆえに、時に腐したり、斜に構えたり、無関心を装ったり、難儀なものです。
が、著者の山本さんはスゴい。向き合っています。
タイトルだけ見ると、「実は悲惨な公務員…なんだ、公務員擁護の本かよ」と思えますが、山本さんは公務員を擁護もしていませんし、逆に叩いてもいません。公務員のより良いあり方、そして、公務員と世の中のより良い関係のあり方について語りかけておられます。入口こそ「実は悲惨な公務員」というセンセーショナルな言い方ではありますが…。
うまくお伝えするのは難しいですね。続いて章立てを引用させてもらいます。
〈引用はじめ〉
プロローグ あなたはアンチ公務員?親方日の丸サポーター?
第1章 給与・福利厚生 お役人の待遇は本当にオイシイのか?
第2章 天下り問題 ケシカラン天下りを徹底検証
第3章 給与実態 「グータラなくせにクビがない税金泥棒」の実像
第4章 コスト感覚 お役所はなぜ税金をムダ遣いするのか
第5章 無責任体質 リスクや責任ををとらない理由
第6章 マスメディア TVもダメ、新聞もヘン?
第7章 クレーマー 国民からの苦情窓口としてのお役所
エピローグ お役所バッシングを超えて
〈引用おわり〉
どの章も、世の中で公務員についてよく聞かれる批判の言葉が取り上げられています。
そう、実はこの本のテーマは、「公務員バッシング」なのです(と、私は思いました)。
山本さんはご存知「太陽と北風」の寓話を、文中で何度も引き合いに出されます。
太陽と北風が、どちらが旅人のマントを脱がせられるかを競ったあの話ですね。
公務員バッシングには理由があるものも理不尽なものもありますが、今の日本の公務員バッシングの在り方は、公務員や行政、そしてそれらと市民との関係を良くすることができない「北風」のやり方である。より良いやり方があるのではないか、と、山本さんはおっしゃるんですね。
自分も公務員の端くれですが、公務員であるだけで、いくら自分が清く正しく(かどうかはわかりませんが)、そして全身全霊で職務に打ち込んでいても、「公務員は税金でいい暮らししやがって」「公務員は苦労知らずでいいよな」というバッシングの亡霊におびえることがあります。この本でも、山本さんが行きつけの美容院で、公務員であることをひたすら隠し通したというエピソードがありますが、よくわかります。
公務員が「公務員です」と言うことをはばかるのが、今の日本です。
公務員になりたいという皆さん、自分が髪を切りに行って、「お仕事は何されているんですか」って聞かれて「えーと、会社員です」って答える姿、そういう世界を想像されたことはありますか?ちなみに私も、日常生活ではそうそう簡単に「名古屋市職員です」とは言いません。誰がどんな悪い印象を受けるか分かりませんので。
このサイトは、公務員を志望する方に、役に立つような本を紹介したいなあという考えで色々と書いているわけですが、正直この『実は悲惨な公務員』は、そういう方々に読ませていいものか、というか、どんなご紹介をすればいいのか非常に悩む本です。
逆に公務員の方は、単純に面白い本なのでサクッと読んでいただければと思います。国家公務員宿舎のボロさがひどいとか、写真付きで載せてる本はなかなか無いと思いますよ。ちなみに我が名古屋市は職員宿舎はほとんどゼロです。住宅補助は2500円です。桁は間違えてないですよ。二千五百円です。あれ、二千円だったかも。まあ、そういう世界です。
一方、この本を本当に読んでほしい一般市民の皆様は、よほど酔狂な方でなければこの本を手に取ることはないと思います。憎々しい公務員、なんでわざわざ、それが『実は悲惨』なんて本を読まないといけないのか。
そして、公務員を志望せんとする方に、この本はどういう意味があるのか、読むと得をするのか、損をするのか。
公務員バッシングというのは、あります。ただ、「公務員バッシングというのがひどいらしいから、公務員になるつもりなら覚悟しようね。そしていっしょに貝になろうね。」というのも、この本のメッセージとしては、取り違えているような気がします。そういう辛さを耐え抜こうねとか、そういう話ではないと思うのです。人からねたまれたり憎まれたりするけど、定年までの40年を耐え抜けばいいんでしょ、という感覚で公務員に向き合っていただきたくないのです。市民のためにも、行政のためにも、あなたのためにも。
市民に憎まれようがなんだろうが、それ自体は本質的な問題ではありません。これは難しい話ですが。
ただ、もし皆さんが公務員になられたら、私と一緒に向き合ってほしいのは、「この市民と公務員の不幸なすれ違いを、もっと、どうにかより良いものにできないだろうか」、ということです。我々の仕事は、世の中を1ミリでも良くすることなのです。我々は旅人で「北風」が市民だとしたら、旅人が「北風を吹かせるのはやめてくれないか」という立場ではありません。ただ、北風が我々が良い仕事をしていくのに障害となるのであれば、我々は話しかける立場ではないとしても、それでも北風に働きかけていかなければならない。分を超えて。
と、そんなこんなで前のめりで色々と書いてしまいました。
この本は、読むことも、読まないこともお勧めしません。ただ、これを読んだうえで、前向きに公務員になってくれる方がおられるのであれば、私はその方と一緒に仕事をしてみたいと思います。
0コメント