公務員って、決められた通りにやるだけでしょ?
こんばんは。名古屋市職員の鵜飼です。
今日は、
「法令と公務員、レシピと料理人」
というお話をしてみたいと思います。
公務員(正確には行政職員)の仕事は、「法を執行すること」、そして特に自治体職員の場合は、これに加えて「自治体の価値を高めること」の二本柱から成り立っています。
これに結果的に関連しているのかもしれませんが、一般の方が持たれる公務員の仕事のイメージのひとつに、「決まったとおりにやるだけ」「決められたことをやるだけ」というものがあるように思います。
前回書かせていただいた、「市民課で住民票を出してる人」も、そのイメージと重なります。
で、「あんな仕事、バイトで十分」「誰でもできる」「高い給料は不要」といった批判がされる場合もあると思います。
あの仕事がバイトで十分なのか、誰でもできるのか、高い給料は不要なのか、それを私は判断する立場にありませんが、「決まったとおりにやるだけ」「決められたことをやるだけ」というお話について、今回は「たとえ」を使ってお話させていただこうと思います。
突然ですが、
皆さんは、料理はされますか。
私は、そこそこ、します。というか、してました。
昔はNHK出版の『今日の料理』を買ったりして、「やっぱりオレンジページとかレタスクラブはレシピがチャラいな。今日の料理、一択。おれ、わかってる。」などと気持ちの悪い中二病をこじらせていたりもしましたが、結婚して奥さんが料理を担当してくれるようになった今は、たまに昔のうろ覚えでテキトーに何か作ったり、ググったりクックパッド見てテキトーに何か作ったり、まあ何にしろテキトーにやるような感じです。
料理って、レシピがありますよね。
カツ丼のレシピです。ググってみました。
とんかつを「市販のもの」で書いてくれるあたり、いいですね。
(よく見たら、オレンジページですね!)
これくらいなら、今の僕でも作れそうです。
では、こんなのはどうでしょう。
トムヤムクンのレシピです。初めて見ました。
お水、エビ、わかります。
フクロダケ、エシャロット、レモングラス聞いたことはなくはない。
ナンキョウ、パイマックルー……
パイマックルーはご家庭にない!
というか、トムヤムクンなんてちゃんと食べたこと、ほとんどないですから、ナンキョウとパイマックルーを手に入れて、レシピ通り頑張って作ってみたとしても、それが本当に「レシピ通りできた」のか、判断がつきそうにないですね。
あーあと、そういえば、オムレツ。
あれ昔からなんとかならんかって練習してるんですけど、フライパンのヘリでくるくるとまとめてくのが、どうしてもうまくできないんですよ。なんか、手首のあたり、トントンするようなやつ。どうやったらできるんですかね。
そうなんです。
レシピがあったとしても、だからと言って、即座にレシピ通りの料理が魔法のように現れるわけではないんです。当然ですが。
おいしい料理、ちゃんとした料理ができるかどうかは、料理をする人の腕にかかっているわけです。
このレシピと料理、料理人の関係、私は、法令と行政サービス、公務員の関係と同じだと考えます。
我が国は法治国家です。
法治国家は、社会を動かすのは法であり、その法は民主主義のルールの中、立法府である国会で定められます。法令の「令」は、政令で、これは行政府が定めるものですが、法に準じた性質を持っていて、やはり社会を動かすのに必要なものです。
ただ、「法令を定めました」というだけでは、それはただの文字にすぎません。これを、現実のものとして形にし、サービスや規制として国民・市民のもとに届ける営為がなければ、何ひとつ社会を動かすことはないのです。
この具体的なプロセスを担うのが、行政の組織と行政職員なのです。
どんな素晴らしい奇跡のレシピがあっても、料理する人がいなければ、その料理はだれの口に入ることもないのと同じで、民主主義のプロセスで最高の法律が打ち立てられても、これに血肉を与えて、具体的なサービスや規制として形にする行政組織と行政職員がいなければ、その法令は現実の社会を変えることはないのです。
さてここで、最初の話、「決められたことをやるだけなら、誰でも同じ」の話に立ち返りますと、「レシピがあるなら、誰が作っても同じ料理ができる」ってことはないですよね。パイマックルーがどんな食材かも知らない私は、本場のトムヤムクンは作れません。フライパンの技術が未熟な私では、フワフワでスベスベのオムレツを作れません。同じことです。
実は私は、行政の仕事について「レシピと料理人」のイメージを持つようになってから、ようやく自分のやっている仕事に、具体的な誇りを持つことができました。
法令にもいろいろあります。どう考えてもこのレシピおかしいんじゃないか?って首をかしげるようなものもあれば、難解、複雑怪奇で読むだけで気が狂いそうになるようなものもあります。
でも、とにかくわたしたち行政の仕事がなければ、あらゆる法令は誰の手元にも届かないんですね。だったら、レシピがおかしいんだったら、法令の目的と主旨を損なわない限りで、運用でアレンジしてまともな味に仕上げるのが仕事だし、難解、複雑怪奇な法令でも岩にかじりついて読み解いて、その「幻のレシピ」を社会にお届けしたろうやないかい!と、気合を入れて取り組むのが仕事です。
こういう感覚は、地方公務員と国家公務員で、けっこう違いがあるんじゃないかなと思います。我々市町村の人間は、生粋の料理人のようなところがあります。目の前にお客さんがいるわけですから、自分の能力を使い尽くして料理を作り続ける。
一方、国家公務員の方は、料理研究家のようなところがあるのかなと。つまり、レシピを作ったり、場合によっては変えたりする場所に近いところにいらっしゃる。まあ、これは想像の域を超えませんが。
都道府県の方々はどうでしょうか。もしかしたら、チェーン店(市町村)のエリアマネージャーのような側面もあるのかもしれません。我が名古屋市は人口230万人の政令市なので、職員数もいますし、ある種、一定の事務処理能力もありますが、人口の桁が二つ違うような小規模な市町村さんだと、当然職員数も少なく、でもラインナップとしては基礎的地方公共団体として同じ行政サービスを市民に提供しなければなりません。そこに手厚いサポート(指導)をするのが、都道府県さん。まあ、これも想像ですけど。
とりとめがなくなってきましたが、公務員を目指される方は、「楽そうだから」「安定してそうだから」という話もそれはそれでとても大事ですが、「行政職員がいなけりゃ、法令はただの文字!自分が調理してやるぜ!」なんて志を抱いて公務員受験をしてみたら、きっともっと楽しいんじゃないかって思いますよ。
あと、このブログは未来の公務員さんに向けて書いてはいますが、もし現役公務員の方で、これを読んでくださって、かつ、「行政の仕事を誇らしく思っていいのかしら」という、かつての私と同じ悩みを抱えた方がおられたら、ぜひ私と一緒に、誇らしく思っていただけたら嬉しいなと思います(笑)。
今日はここまで。
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